お知らせ

国際学会発表報告:TEI2025 & DLfM2025

報告者: 関 慎太朗(東京大学ヒューマニティーズセンター特任研究員、理化学研究所学振特別研究員PD)

2025年9月、韓国・ソウルの西江大学校で開催された12th International Conference on Digital Libraries for Musicology 2025(以下、DLfM 2025)と、ポーランド・クラクフのヤギェウォ大学で開催されたTEI Conference and Members meeting 2025(以下、TEI 2025)に関慎太朗HMC特任研究員が参加し、研究発表を行いました。

本報告では、それぞれの学会で行った発表の概要について簡単にご報告します。これらの研究は、日本の伝統音楽という貴重な文化遺産をデジタル技術で整理し、国内外の研究者や愛好家が関連資料をより簡単かつ効果的に活用できる未来を目指すものです。

発表①:デジタル公開された雅楽譜へのアクセスを向上させるためのメタデータ構築(DLfM 2025)

現在、雅楽譜の貴重なコレクションが国書データベース等で公開されていますが、多くは目録のない数百から数千ページ単位の画像群であり、目的の楽曲を探すには画像を1枚ずつ確認する必要がある、という課題がありました。この研究は、個々の楽曲への直接アクセスと、関連資料(異なる写本やパート譜)の接続を実現することを目的としています。その達成のため、以下の3段階のアプローチを採用しました。

デジタル資料の再構築
まず、1つの巨大なデジタル資料として扱われていた楽譜画像を、「巻」単位で分割しました。さらに、頻繁に演奏される唐楽中小曲に該当する321件の楽譜については、個々の楽曲・パート譜単位で直接アクセスできる独立したIIIFマニフェストを作成しました。

メタデータの作成
次に、分割した巻や楽曲、さらには各パート譜に対して、RDF(Resource Description Framework)を用いて索引情報(メタデータ)を作成しました。各パート譜には固有のIDを割り当て、後のデータ連携を可能にしています。

資料とデータの連携
最後に、作成した索引情報(メタデータ)と、再構築したデジタル楽譜画像を紐づけました。これにより、SPARQL (SPARQL Protocol and RDF Query Language)を用いた検索が可能になりました。

これらの成果として、雅楽の楽譜を検索・閲覧できる「雅楽譜 IIIFビューア」を作成し、GitHub Pagesで公開しています。このビューアには、楽器や調子での絞り込み検索や、異体字の一部を正規化して検索できる機能などが実装されています。今後は、画像認識技術を用いて楽譜の索引作成を自動化したり、日本の伝統音楽に特化した知識体系を構築したり、といった拡張を計画しています。サイトのコンテンツについても、今後拡張していく予定です。

発表②:日本伝統音楽の独習書をデジタルテキストとして記述する試み(TEI 2025)

日本の伝統音楽の独習書には、唱歌や譜字のように文字を用いて記される音楽的な情報と、序文や解説といったテキスト、さらには楽器の指使いを示す図表などが混在しています。この発表では、こうした多様な情報を含む資料全体を、コンピュータで処理可能なデジタルデータとして包括的に記述するための手法を提案しました。具体的には、以下の3つの技術を組み合わせて用いています。

TEI (Text Encoding Initiative)
文書全体の構造、自然言語で書かれた散文(序文、解説など)、基本的な書誌情報を記述するとともに、異なるフォーマットで記述されたデータをつなぐ「背骨」として利用します。

カスタムXMLスキーマ
雅楽の楽譜の特殊性を捉えるために独自に定義したXMLを使い、唱歌、譜字、拍子といった音楽的な情報を記述します。

RDF (Resource Description Framework)
楽譜中の図表などから得られる知識(例:「この指使いをすると特定の音高が出る」)を、コンピュータが解釈可能な形式で記述し、楽譜内の記述とも結びつけます。

これらのアプローチにより、TEIを軸として、元の資料の画像、翻刻された楽譜テキスト、そして図表から抽出された知識を相互に結びつけることが可能になります。これは、マルチモーダルな情報が絡み合った資料をデジタル化し、多角的な分析を行うための新たな方法論を提示するものです。

まとめ

2つの学会への参加を通じて、日本の伝統音楽資料のデジタル化というテーマに対し、海外の研究者から多くの有益なフィードバックを得ることができました。特に、本研究で構築している手法の応用可能性について、建設的な議論ができたことは大きな収穫でした。今年のTEIでの発表は偶然にもMusic SIGの再始動とも軌を一にしており、自身の研究アプローチが国際的にも意義を持つものであると再確認でき、大変勇気づけられました。今後も国内外の研究トレンドを踏まえつつ、日本の貴重な音楽資料をデジタルアーカイブとして整備・活用し、次世代に継承していくための研究を推進してまいります。

発表資料
上記2件の発表で使用した資料は以下のリンクからアクセスできます。

謝辞
本研究及び発表はJSPS科研費(課題番号:JP25KJ0407)の助成を受けたものです。