機構長挨拶

これから、ここから

2017年7月1日、ヒューマニティーズセンターは東京大学の連携研究機構として、法学政治学研究科、人文社会系研究科、総合文化研究科、教育学研究科、情報学環、東洋文化研究所、史料編纂所、附属図書館の合意と協力のもとに設置されました。幸いにも、みなさまのお力添えをいただき、年を追うごとに活動は充実し、寄せられる期待も大きくなりました。一方で、制度にもとづく設置期限は2022年6月30日と定められていました。私たちは、1年あまり前から議論を重ね、関わってくださった方々の意見に耳を傾けた上で、この活動は継続する価値があり、その責任があると考えました。新たに人文社会系研究科を主管部局として再設置を申請したところ、これまでの実績とこれからのプランが認められ、2022年7月1日、ヒューマニティーズセンターは再び連携研究機構として出発する日を迎えました。温かい励ましも多く頂戴いたしました。ありがとうございます。

ヒューマニティーズセンターは、株式会社LIXILおよび同会長(当時)の潮田洋一郎様のご理解とご支援に支えられて発足し、今日にいたりました。潮田様からは、新たな出発にあたっても継続してご支持をいただき、「潮田ヒューマニティーズイニシアティブ」による研究助成を今後の活動の大きな柱とすることができました。改めてお礼を申し上げます。

私たちの出発点は、個々の研究者の自由な発想を尊重し、それを支援しながら結びあわせ、人の営みを問いの中心とするヒューマニティーズの多様性と奥深さを目に見えるようにすることにあります。その実践として、外部に開放されたセミナーの頻繁な開催やフェロー(研究採択者)相互の交流、セミナーの記録をタイムリーに公開するブックレット制作などをさまざま試みるうちに、人文学及び隣接諸分野の連携による多様な実践としてのヒューマニティーズが、学内外の研究者コミュニティのみならず、社会のさまざまな人々をつなぐプラットフォームとして新しい役割を果たしつつあることを実感するようになりました。そうした人と人とのつながりは、私たちの構想するヒューマニティーズにとって本質的であるように思われます。

2020年度より始まった「URAの活用によるヒューマニティーズリエゾン」も活動の大きな柱として継続されます。URA(UniversityResearchAdministrator)は、本来は研究企画管理の専門職として位置づけられるべき職種ですが、日本の大学では、組織的な資金獲得のサポートなどにあたることが多く、大規模研究の少ない人文学では、その制度化がなかなか進まないのが現状です。ヒューマニティーズリエゾンは、本センターの活動によって蓄積された研究者情報や研究シーズをリソースとすることで企画と支援の範囲と展望が見えやすく、フェローとの日常的な協働によってスキルも身につけやすいという利点があります。これからはさらに「つながる人文学」を掲げてヒューマニティーズリエゾンを強化し、若手研究者による企画運営の拠点として位置づけることにしました。

学問としての人文学は、非組織的で個別的な営為であることが多く、またディシプリン(専門性)を保持しようとする傾向があり、「蛸壺」として批判されがちです。しかし、私たちは、それを無理に組織化したり、脱ディシプリンへと誘導するよりは、散発的で専門的であることを前提として、触媒作用が起こるようなつながりをそれぞれ作りながら、新たな思考と探索と対話の場を別のレイヤーとして用意することが有効だと考えます。たとえばオープンセミナーのように大学という枠を外した場で、生き生きと研究を語るフェローの先生方の姿からだけでも、専門家同士の議論とは別に、こうした空間が研究者にも大切であることが実感されます。ヒューマニティーズは、もともとそれぞれの体験に根ざした営みです。そこから何かを見出し、歓び、伝える。そうしたシンプルな原点を、私たちは大切にしたいと考えます。それもまた、これまでの体験から得られたヒューマニティーズセンターの発見です。

ここから、また新たなヒューマニティーズセンターが始まります。どうぞよろしくお願いいたします。

2022年7月1日
東京大学連携研究機構ヒューマニティーズセンター機構長

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