企画研究「学術資産として東京大学」(代表:鈴木淳)のワークショップが開催されます
企画研究「学術資産として東京大学」ワークショップ
「東大仏教学への新たな視座」プログラム
開催概要
東京大学は創立以来、東アジアの学問伝統という土台の上に西洋に由来する学知を移植・発展させることで、日本における学術研究の基幹をなしてきた。本学の歩みの本質は学知を集積する営みであったが、一方で大学を取り巻く社会・国家・人類の要請に応じ、学術の立場から課題に答えてきた歴史でもあった。すなわち東京大学という総体そのものを、日本あるいは東アジアにおいて蓄積され運用された学術資産として捉えることが可能である。そして東京大学を学術資産と見なすならば、本学の歴史を問うことは、社会における大学と学術の来し方を踏まえ、その将来を見据えるために避けては通れない。
学術資産という視点から東京大学史を試みるとき、仏教学は格好の素材を提供する。本学における仏教学は、近世日本の仏教教団で構築されてきた宗学と西洋由来のインド学との融合によって生まれた。その研究手法は「近代仏教学」と称され、日本の大学における仏教研究法の範となりつつ、大正新脩大蔵経編纂とデータベース化により東アジアに伝承された知識基盤をデジタル・アーカイブ時代へと繋いでいる。このような成果を上げた東大仏教学は一面において大学で行われた学術的営為であったが、他面においては僧侶・居士でもあった碩学によって担われたために近代化されゆく日本の中で「護教的」であることを時に宿命づけられた。つまり東京大学における仏教学は、東西の学術の邂逅に発し、学外との交渉の中で運用され蓄積された学術資産であった。
本ワークショップでは仏教学史を吟味することで、学術資産たる東京大学の学知が近代日本の中で担ってきた役割について考察する。ただしそのためには、東大仏教学に向けた新たな視座が必要となる。というのも、確かに近代日本における仏教学史は仏教学内部でなされた先行研究批判の文脈で、あるいは近代日本宗教史の一側面として論じられてきたものの、前者からは仏教学と大学外との交渉が、後者からは仏教学の学術的発展が捨象されている。故にそれらは蓄積され、運用される学術資産としてのあり方を捉えるためには未だ十分でない。本ワークショップでは、仏教学者の発表に対し歴史学者がコメントするという専門分野の枠を超えた研究協創により、学術資産としての東大仏教学を大学内外の視点から立体的に把握することを試みる。
まず仏教学者からは、一色大悟(ヒューマニティーズセンター特任助教)が仏教教理史研究(組織仏教学)に含意された対社会的発信に光を当てる。「教理の歴史的・体系的把握」は『東京大学百年史』によって本学における仏教学の目的と位置づけられ、現在に至るも継続している研究伝統である。しかし、とくに仏教学草創期における組織仏教学は学界に向けた成果であるにとどまらず、仏教近代化のための主張が込められたものだった。一色の発表により、東大仏教学から学外に向けた眼差しが解明されるだろう。
次に、同じく仏教学分野から下田正弘(人文社会系研究科教授)が、宗学との対比のもとで、仏教学の意義を知識基盤の次元に掘り下げて論じる。仏教学という学問領域が近代の大学に生長したのに対し、日本の仏教各宗派では前近代以来、宗学と呼ばれる学問伝統が継続されている。仏教学と宗学は単に関心の所在が異なるのみならず、大学と宗派という担い手に根ざし、さらには情報通信技術という知識基盤によって規定されている。下田は、宗学を参照することで仏教学という学問領域の枠組みそのものを問い、学術資産としての価値を再定位するとともに、デジタル・アーカイブ時代における仏教学の意義を展望する。
これら二名の発表に対し近代日本思想史を専門とする苅部直(法学政治学研究科教授)、近代日本史を専門とする山口輝臣(総合文化研究科准教授)がコメントを加えることで、近代仏教学を近代日本という文脈において捉え直す。
日時
2018年7月20日 15:00 - 18:00
場所
東京大学本郷キャンパス法文1号館214教室
プログラム
- 15:00 - 15:10
趣旨説明 鈴木淳(企画研究代表、司会) - 15:10 - 15:40
発表「組織仏教学が遺したもの」 一色大悟 - 15:40 - 16:00
コメント並びに質疑応答 苅部直 - 16:00 - 16:30
発表「仏教学にみる日本における学知形成の特徴について」 下田正弘 - 16:30 - 16:50
コメント並びに質疑応答 山口輝臣 - 17:00 - 17:10
休憩 - 17:10 - 17:40
全体討論 - 閉会