お知らせ

協働研究「アジアの都市におけるノスタルジアの表出と文化遺産の創出」ワークショップ
韓国の都市におけるノスタルジアの表出と文化遺産の創出
워크숍 "한국 도시의 향수 표출과 문화유산 창출"

カテゴリ: イベント
  • 日時:2024年2月20日17時 - 19時
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 文学部3番大教室+Zoomオンライン同時配信
  • 講演:
    • 陳名熟 진명숙(ジン・ミョンスク/全北大学校)
      「全州韓屋マウルの観光化過程におけるノスタルジアの具現」
    • 金賢貞 김현정(キム・ヒョンジョン/亜細亜大学)
      「韓国における「近代文化都市」の創出―全羅北道群山市における日本式建築物の観光資源化とノスタルジア―」
    • 全体ディスカッション
  • ディスカッサント:本田洋(人文社会系研究科)
  • 研究代表・司会:松田陽(人文社会系研究科)
  • 通訳:鄭育子(CHUNG, Yookja/茨城大学非常勤講師)
  • 主催:東京大学ヒューマニティーズセンター

※講演は日本語、ディスカッションは日本語+韓国語(日本語通訳付)で行います。

協働研究の関係者によるワークショップですが、学内の方に限りご聴講いただけます。貴重な機会ですので、ご興味のある方はぜひご参加くださいませ。
※「u-tokyo.ac.jp」アカウントでお申込みください。

現地参加お申込み
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdkZWCNo6CvK_cpeWrfI8evjj3yjrA4PSd4leP0ox9Eq_sKYA/viewform?usp=sf_link

オンライン参加ご登録
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZUofuGoqz4pH9zYcp1KxhKJ9f5-iUyGCnLV

ワークショップ概要

「過去に対する感傷的な思慕」と定義されるノスタルジアは、人文学や社会科学ではあまり積極的に評価されない。おそらくそれはノスタルジアが後ろ向きであり、過去を美化するニセモノであり、場合によっては帝国主義的でもあると捉えられているからだ。過去を学術的に考究する上で懐古趣味は棄却すべき、とでも言うべき意識が確実にある。しかし、近年のノスタルジア研究では、ノスタルジアが現代社会の矛盾や問題点を浮き彫りにする批判性を伴う可能性や、目まぐるしく変化する世界の中で人々の精神的安定をもたらす効果を評価するものが出てきている。
 以上を留意し、本研究会は東京大学ヒューマニティーズセンター協働研究「アジアの都市におけるノスタルジアの表出と文化遺産の創出」の枠組みの中で、韓国の都市に焦点をあて、そこで過ぎ去った時代がどのように懐古・追慕・理想化され、そのことによって郷愁を核とした文化遺産や人々の新たな社会的・商業的活動がいかに生み出されているかを考察する。東京で研究会を開催することを意識し、東京にみられるノスタルジアと、韓国の都市にみられるノスタルジアとを比較し、両者の相違点や共通点がなぜ、いかにして生まれているのかも検討する。

도쿄대 휴머니티즈센터 연구회 "한국 도시의 향수 표출과 문화유산 창출"
‘과거에 대한 감상적 사모’로 정의되는 향수는 인문학이나 사회과학에서 그다지 적극적으로 평가받지 못한다. 아마도 그것은 향수가 돌아서고 과거를 미화하는 가짜이며 경우에 따라서는 제국주의적이기도 한 것으로 받아들여지고 있기 때문이다. 과거를 학술적으로 고찰하는 데 있어서 회고 취미는 기각해야 한다는 의식이 분명히 개재하고 있다. 그러나 최근의 향수 연구에서는 향수가 현대 사회의 모순이나 문제점을 부각시키는 비판성을 수반할 가능성이나 어지럽게 변화하는 세계 속에서 사람들의 정신적 안정을 가져오는 효과를 평가하는 것이 나오고 있다.
 이상을 유의하여 본 연구회는 도쿄대학 휴머니티즈센터 협동연구 ‘아시아 도시에서의 향수 표출과 문화유산 창출’의 틀 안에서 한국의 도시에 초점을 맞추고, 거기서 지나간 시대가 어떻게 회고·추모·이상화되고, 그로 인해 향수를 중심으로 한 문화유산이나 사람들의 새로운 사회적·상업적 활동이 어떻게 만들어지는가를 고찰한다. 도쿄에서 연구회를 개최하는 것을 의식해 도쿄에서 볼 수 있는 향수와 한국 도시에서 볼 수 있는 향수를 비교하고, 양자의 차이점과 공통점이 왜 어떻게 생겨나고 있는지도 검토한다.

講演要旨

講演1
陳名熟(全北大学校)
「全州韓屋マウルの観光化過程におけるノスタルジアの具現」
Jin, Myong-suk (Jeonbuk National University)
Implementation of nostalgia in the process of tourism development of Jeonju Hanok Village

「全州韓屋マウル」は,韓国南部地方の全羅北道全州市に位置する観光地である。しかし,かつてこの場所は校洞や豊南洞と呼ばれる住居地であった。この地域を対象として観光開発が構想された契機は,2002年韓日ワールドカップの全州誘致が決定された1997年以後のことである。近年ではあまり見ることのできない「韓屋」が密集していて,全州の伝統文化を誇示するのに最も適した場所として脚光を浴びたものである。

全州市は歩道を全面的に整備するとともに,民間住宅を買い入れて20ヶ所余りの公用文化施設を建てた。民間人が運営する文化施設に加え,ゲストハウス,飲食店,食べ物・飲み物の屋台,記念品売店など,各種の商業施設が軒を連ね,今やここが過去に住居地域であったということが信じられないくらいに大きく変貌した。2002年に30万人余りであった観光客も,コロナ直前には1,000万人を越えるくらいまでに大きく増加した。

この発表は,全州韓屋マウルの観光化過程で,ノスタルジアがどのように具現されているのかを探究するものである。まず校洞・豊南洞をノスタルジアの景観として先取りしたのは全州市であった。700余軒の韓屋が都心のなかに密集している風景を開発することにしたためである。しかしそれ以後のノスタルジアの活用は,文化芸術集団,商人集団等,さまざまな階層で異なる形で現れている。韓屋マウルの風景を変えた「韓服体験」は,MZ世代が創出したノスタルジア商品である。消費者がノスタルジアを積極的に先取りしつつ,観光地の変化を牽引しているのである。本発表は,平凡な住居地が観光地に変わる過程で,伝統がどのように発明され,ノスタルジアがいかに多様な形式で活用されているのかを精査する機会となるであろう。

講演2
金賢貞(亜細亜大学)
「韓国における「近代文化都市」の創出―全羅北道群山市における日本式建築物の観光資源化とノスタルジア―」
Kim Hyeonjeong (Asia University)
Creation of “Modern Cultural City” in Korea - Nostalgia and the process of turning Japanese-style buildings in Gunsan, North Jeolla Province, into tourism resources

韓国の南西部に広がる全羅北道の都市群山(クンサン)市は、韓国「最大の近代文化都市」であると自称している。群山は、市の観光産業を方向づけるべく2016年に市の観光ブランド名を「ハロー、モダン(Hello, Modern)」と決めた。アナログ時計の文字盤を背景に書かれたハロー、モダンという英字は、市や市観光専用の公式ウェブサイト、公式のあらゆる観光パンフレットなどから簡単に見つけられる。では、ここで「モダン」、すなわち「近代」は、韓国史の中でどの時代を指しているのであろうか。

2000年代に入った群山には、日本植民地時代に建てられた日本式建築物が170棟以上残存していた。韓国では一般に「敵産家屋」と称されるこうした日本式建築物は、韓国史において重大な悲劇と位置づけられる植民地時代を通して建てられたものであるため、悲劇の歴史を象徴する負の遺産と捉えられた。しかし、登録文化財制度の導入により、日本式建築物は韓国のナショナルな「文化財」として登録できるようになる。群山市は、市内に放置されてきた日本式建築物の文化財登録を機にこれらの保存・活用へ舵を切る。市による日本式建築物の資源化計画は、国家予算の補助される事業に選ばれるが、その事業名が「近代文化中心都市造成事業」であった。要するに、ハロー、モダンのモダンは、「植民地時代」という近代を指す。
日本式建築物の観光資源化は今も続いている。当初と異なるのは、その主体が市行政から民間に移りつつあることである。日本式建築物の密集するエリアには、老朽化した日本式建築物を立派な日本式建築物へ改築し、それらをゲストハウスやカフェなどに利用するビジネスが繁盛しており、観光客からも人気を博している。注目されるのは、こうした商業施設がアピールポイントとして打ち出しているノスタルジックな仕掛けである。

本発表では、群山市が近代文化都市に創り出されるプロセスやそれを可能にした制度的変化について述べた上で、日本式建築物の観光資源化に見られる植民地時代という「歴史」「イデオロギー」と「ノスタルジア」の並置や混淆について考えたい。