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第122回東京大学HMCオープンセミナー「小林照子の印象分析論」

カテゴリ: 「顔」は何を語るのか──過去から未来へ , オープンセミナー , 協働研究

2024年10月22日に開催された第122回オープンセミナー「小林照子の印象分析論」について、研究代表である永井久美子先生に、当日の参加記をご執筆頂きましたので、掲載致します。

2023年1月から2年間の予定で始まった協働研究「「顔」は何を語るのか――過去から未来へ」の期間満了が早くも近づく中で、2024年10月、豪華なゲストを迎えてオープンセミナーを開催することができました。美容研究家・メイクアップアーティストの小林照子氏です。小林氏は89歳現役、長年のご経験から、顔の造形から人がどのような印象を受けるのかを分類し、独自の「印象分析論」を構築された方です。本協働研究では、京都大学の上田竜平先生を中心として、顔の印象をめぐる定量的な心理調査を行ってきました。方法が異なるとはいえ、問題関心の方向性に近いものがあるならば、学術交流により新たな知見が得られるのではないかと考え、今回のセミナーを企画しました。

小林氏は、演劇のメイクに関わりたいと19歳で山形から上京され、大手化粧品会社に就職、美容部員としてハードな地方営業も乗り越え、多くの人々に接してこられました。48歳のときに社内ベンチャーとしてプロ養成スクールを開校、56歳で独立され、後進の育成に携わっておられるほか、ご自身も現場で活躍され続けており、2024年2月には、全身にメイクを施す「からだ化粧」の取り組みがNHK「日曜美術館」で取り上げられています。

セミナーにおいて、小林氏は長年のメイクのご実績から整理された「インプレッションマップ」をスライドで提示され、分類した各ゾーンの顔が、それぞれどのような形容詞と結びつきやすい印象を人に与えるのかを図解してくださいました。分類の根拠は、パーツの大小、上下・左右の動き、中心点への動き、角度の変化、立体性、年齢による変化という6種類の特質によるところが大きいとのことです。合わせて今回は描かれた顔についても分析をご依頼し、協働研究で調査を行った鎌倉時代の絵巻「公家列影図」(重要文化財、京都国立博物館蔵)より抜粋した男性貴族の顔の印象を聞かせていただきました。

ディスカッサントは今回、心理学を専門とされる上田竜平先生と、哲学がご専門の梶谷真司先生、そして本協働研究の代表者であり、日本古典文学を専門とする永井が担当し、外見の印象判断が、人物の内面の評価にどのように結びつく傾向があるのかという問題が主な話題となりました。小林氏が分類された、たとえば「スイート」「ダイナミック」「キュート」「クール」といった外見の印象が、上田先生が「公家列影図」の心理調査において指標とされた魅力(Attractiveness)および信頼可能性(Trustworthiness)といった内面の評価とどのように結びつく傾向があるのか、人物を絵に描く場合に、内面の特質を外見の特徴で表現しようとする「キャラクターデザイン」が、たとえば鎌倉時代の日本ではどのように行われていたかといった問題について、目指す印象を創出するメイクの実践をされてきた小林氏のご意見を伺うことができ、参加者からの質問も交えて、議論を深めることができました。

内面的な特性や能力などが容姿、とりわけ顔から判断されがちであることに対する問題意識の広がりは、今回のセミナーの視聴者数の多さにも反映されていたように思われます。現代に見られる評価基準の傾向のうち、歴史的な背景を分析することで客観視できる特質もあることから、本協働研究は、多くの人々にとって身近な話題を扱ったものであったと言っても過言ではないでしょう。HMCにおける協働研究は2024年12月をもって一区切りとはなりますが、「顔」をめぐるテーマ研究は、今後も別の形で継続してゆきたいと考えています。

(永井久美子)

協働研究:「顔」は何を語るのか──過去から未来へ