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「恋愛歌人」としての和泉式部と女人往生 ――近代以後の和泉式部伝における「くらきより」歌の評価

概要:
 和泉式部は、近代以後も数多くの歌人や評論家を惹きつけてきた。多くの評伝が生み出され、実証的な人物研究が進められた一方で、式部には時代が求める歌人像が多分に投影された。与謝野晶子以降の評伝に、式部の男性遍歴に特に注目する傾向があり、「情熱的」で「奔放」な恋愛歌人としての人物像が強調されがちであることは、先行研究でも指摘されている。
 和泉式部をめぐっては、近世以前、女人往生を遂げた伝説も広く知られていた。式部の信心は、近代以降、恋多き人生との関係でどのように語られたのか。勅撰集たる『拾遺和歌集』に入集した名歌「くらきよりくらき道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月」の近現代の評伝における評価を比較することを通して、実証研究における信仰の語られ方、恋愛歌人として式部に求められた人物像のあり方を考察する。