オープンセミナー

『瑜伽師地論』の伝承について

  • 日時:2022年1月28日(金)17:30-19:30
  • 場所:Zoomオンライン開催
  • 報告者:高橋 晃一(東京大学大学院人文社会系研究科 准教授)
  • 申込:1月26日(水)締切で、下記の様式でお申し込みください。
  • 主催:東京大学ヒューマニティーズセンター

インドの大乗仏教には、中観派と瑜伽行派という2つの大きな学派がありました。このうち瑜伽行派は、外界の対象はすべて認識の表れに過ぎないと主張したため、唯識学派とも呼ばれます。その思想は中国を経て、法相宗として日本にも伝わっています。今回取り上げる『瑜伽師地論』は、この瑜伽行派の思想をまとめた浩瀚な典籍です。

瑜伽行派の成立は5世紀ごろまで遡ります。この学派の開祖は伝説上はマイトレーヤ、すなわち弥勒菩薩とされていますが、実質的な創始者はアサンガとヴァスバンドゥという兄弟で、この二人は日本では無著と世親として知られています。アサンガ、ヴァスバンドゥの最古の伝記である『婆藪槃豆法師伝』によれば、兄のアサンガはマイトレーヤから教えを受け、『瑜伽師地論』を伝授されたとされています。

時代は下って7世紀に、唐の玄奘は仏典を求めてインドに赴きます。『西遊記』のモデルとして知られる玄奘ですが、彼の一番の目的は『瑜伽師地論』のサンスクリット原典の入手にあったと言われています。玄奘は『瑜伽師地論』の翻訳に際し、その著者に関して「弥勒菩薩説」としています。一方、『瑜伽師地論』は8世紀から9世紀ごろにチベットにも伝わり、チベット語に翻訳されていますが、その際には著者はアサンガとされています。このように『瑜伽師地論』の作者に関しては伝承が一致していませんが、今日では、これは伝説の解釈の仕方に由来するものであり、実際はアサンガが、彼に先行する思想家によって語られていた教説を編纂し、『瑜伽師地論』としてまとめたと考えられています。

今回は『瑜伽師地論』の伝承をめぐって、これまでの学説を整理し、また新出のチベット語文献も参照しながら、マイトレーヤとアサンガに関する伝説について再考します。