オープンセミナー

人文研究と教育の環境を科学する──「比較文学比較文化」の現場から

  • 日時:2022年9月16日(金)17:30 - 19:30
  • 場所:Zoomオンライン開催
  • 報告者:
    • 今橋映子(東京大学教授/HMCフェロー)
    • 韓程善(釜山大学准教授/HMC招聘フェロー)
    • 井上健(東京大学名誉教授)
    • 西田桐子(和光大学専任講師)
    • 町田樹(國學院大学助教)
  • 使用言語:日本語
  • 主催:東京大学ヒューマニティーズセンター
  • 申込:https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZwuduihpzspGNRCUekNcW3uM_xMlkdMSDla

概要

19世紀のフランスに生まれた「比較文学」という学問はすでに150年ほどの歴史を擁し、日本においても戦後、東京大学に初めて大学院組織が設置されて以降、70年以上の学問的歴史の中でつねに、「学際研究」の最先端の実験場としての役割を果たしてきた。

いまや「学際的」と呼ばれる視座や方法は人文研究では一般的だが、それでもなお「比較文学比較文化」固有の領域やアプローチは存在するのだろうか。そしてこの学問名(やそれに類する)学部、学科、講座、授業はいまや全世界で多数展開されているが、その教育体制や内容はどのような役割を果たしているのだろうか──。

本研究ではそれを具体的に知るために、従来人文研究では馴染みの深い文献調査だけでなく、今回初めて社会調査の実施に取り組んだ。具体的には、日本および韓国の「比較文学比較文化」関連科目のシラバスを網羅的に収集してその傾向を分析。それにもとづき日本における関連科目担当教員に対して質問紙調査を実施することで、現場の声も徹底的に収集した。

今回のセミナーでは終わったばかりの社会調査の概要と結果を検討し、どのような研究と教育の「環境」が浮かび上がってきたのかを明らかにする。これまでに類例がないこうした調査を通じて「比較研究」の理論を再構築し、とりわけ「学問と教育の相互作用」についての新たな知見を得ることによって、今後のより充実した大学、大学院教育に資することを最終の目的としたい。〔使用言語:日本語〕


後記

【視聴者からのリアクション】

本セミナーは事前登録者数300名を超え、当日も170名を超える参加者があり、関心の高さを伺わせた。セミナー自体は5名の発表者のため、議論の時間をさらに設けることが出来ないことが予想された。そのため、セミナー終了時にグーグルフォームでの質問・感想等の回答を視聴者に依頼したところ、幸いにも多くの反応を得た。
人文系学問の範疇に入る「比較文学比較文化の教育現場の環境」----という、ある意味専門性の高いテーマではあったため、社会調査の方法や結果、分析が中心となる。必ずしも「一般向け」にそぐわないという懸念があったものの、「全員の先生方の発表が、湯気が立ち上るような最新調査発表で、大変興味深かったです」という感想が寄せられたことは有り難い。また「丁寧な調査、分析、解析が(一般の立場から聴いても)とても大切だと思いました」という言葉も得た。
一方、大学教員と思われる専門家からは「社会調査という形で教育現場の状況を発信していただいたのは、とても新鮮で、これからの授業と研究に役立つと思います」という賛同を頂いた。韓国の事例報告に関心を寄せる方も多く、(比較文学が成立した)フランスを始め欧米での実態を知りたいという声もあった。同時に、比較研究のプレゼンスを学内外でいかに高めるか、本当に文学教育は難しいのか、各国文学の「伝統」といかに関連づけて新たな方向性を追究できるのか----といった現場の声が改めて寄せられたことも貴重であり、いずれも今後の私たちの研究の指針となろう。
最後に、一般視聴者から「そして結局比較文学とは何か、分からなくなります」という率直なご意見が寄せられた点に関しては、時間とテーマの関係上、このセミナーに学問への入門の性格が持たせられなかったことは残念に思うが、その点を踏まえ一層、私たちが計画している初学者向けハンドブックの充実に当たりたいと思う。
なお本セミナーで発表したシラバス調査、社会調査の最終報告書は、2023年度中に完成公開する予定である。(今橋映子記)

【参考文献】

  • 佐藤郁哉『社会調査の考え方』(上・下), 東京大学出版会, 2015年.
  • 竹内洋『教養主義の没落:変わりゆくエリート学生文化』, 中央公論新社, 2003年.
  • 이형진 「비교문학의 정전화와 교육 : 미국비교문학회 '10년 보고서'를 중심으로」 『비교문학』85호, 한국비교문학회, 2021년, pp.7-44.(イ・ヒョンジン「比較文学の正典化と教育----アメリカ比較文学会の「10年報告書」を中心に」『比較文学』85号, 韓国比較文学会, 2021年, 7-44頁.)