オープンセミナー

東南アジアから/で世界を視る:人文系地域研究のアクチュアリティ

  • 日時:20221014日(金)15:00-17:00
  • 場所:Zoomオンライン開催
  • 司会:青山 和佳(東京大学東洋文化研究所教授、東南アジア地域研究・ダバオ/ミンダナオ研究)
  • 趣旨説明:長田 紀之(日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、東南アジア地域研究・ミャンマー近現代史)
  • 話題提供:長津 一史(東洋大学社会学部教授、東南アジア地域研究・海民の社会史・人類学)
  • コメント:
    • 崎濱 紗奈(東京大学東アジア藝文書院(EAA)特任助教、沖縄研究・思想史)
    • 福島 亮(東京大学/ソルボンヌ大学博士課程、フランス語圏カリブ海文学研究) 
  • 使用言語:日本語
  • 主催:東京大学ヒューマニティーズセンター
  • 申込:https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZMod-mqpj4uEt2X6ayz1KzQPj2uJEJAGevg

概要

学術のアクチュアリティというものが問われるようになってから、もうかなりの年月が経ちました。このセミナーでは、人文系の地域研究について、そのアクチュアリティとはどのようなものかを議論するためのひとつの方途として、東南アジア研究の方法論や成果を素材に、他の地域を専攻する地域研究者たちとの対話を拓くことを試みます。

これまで東南アジア地域研究では、「東南アジアらしさ」を示す事柄として人々の移動性の高さ、商業の卓越、女性の社会的役割の大きさ、民族・文化の混淆性などが論じられてきました。これらは現実の地域的特性を表現する一方で、あるべき世界を幻視する「思想としての東南アジア」をも構成してきたように思われます。地域の個性とされるものと普遍性との関係はひとつの重要な論点となるでしょう。

また、地域研究、特に日本における東南アジア研究では、現地語の習得とフィールドワークがつとに重視されてきました。研究主体である個人が、対象地域の土地と社会に可能な限り没入し、内部からの視点を獲得することが目指されたのです。しかし、多くの場合、研究者はフィールドに対して究極的には他者であり続けます。そうした状況下で地域研究者が、自身の当事者性(例えば、日本人としての)をどのように考え、どのように行動するかということも、地域研究のアクチュアリティという問題と関係するでしょう。

このセミナーでなんらかの結論に到達することは想定していません。対象地域ごとに分断されがちな地域研究者たちや「地域」に関心を寄せる人たちの間をつなぐ糸口をつかめればと考えています。


後記

長田紀之氏が、本セミナー成立の趣旨を説明した後、東南アジア地域論・日本での東南アジア研究史を概説した。
長津一史氏が、まず鶴見良行氏や村井吉敬氏の学統を振り返り、海域世界論と「海民」の概念を紹介した。そして「バジャウとマグロ──海民のグローバルヒストリーを考えるための素描」を題に、気仙沼のフィールド調査を通して、マグロという商品をめぐって海民のグローバルな社会史および海を中心とする世界観を描いた。

長津一史氏の講演を受け、崎濱紗奈氏と福島亮氏がそれぞれの研究分野からコメントと対話を行った。
崎濱氏が、東南アジアや沖縄、そしてカリブ海世界をつなぐキーワードとしての「境界」が持つ二面性(画一性を解放する力を持つ混淆性というポジティブな側面と、それが国家に簒奪・利用される危険性)を指摘した。また、複数の地域・場所が持つ経験を共有するために「理論」が果たす役割の重要性について言及した。
福島氏が、カリブ海地域研究と東南アジア研究との対話を主張し、日本におけるクレオール性をめぐる議論・エメ・セゼールの言説・「水牛」というグループおよびその刊行物を紹介し、群島的地域研究の必要性を説いた。
その後、フロアからも数多くの質問と指摘が出て、活発な議論が行われた。

【参考文献】

  • アンソニー・リード著、太田淳・長田紀之監訳、青山和佳、今村真央、蓮田隆志共訳『世界史のなかの東南アジア』(上下巻)名古屋大学出版会、2021年。
  • 板垣雄三『歴史の現在と地域学―現代中東への視角』岩波書店、1992年。
  • 立本成文 『地域研究の問題と方法―社会文化生態力学の試み』京都:京都大学学術出版会、1996年。
  • 古田元夫「地域区分論―つくられる地域,こわされる地域」『岩波講座世界歴史 第1巻 世界史へのアプローチ』岩波書店、1998年。
  • 中村隆之『エドゥアール・グリッサン―〈全-世界〉のヴィジョン』岩波書店、2016年。
  • 長津一史「海民の社会空間―東南アジアにみる混淆と共生のかたち」甲斐田万智・佐竹眞明・長津一史・幡谷則子編『小さな民のグローバル学―共生の思想と実践をもとめて』上智大学出版会、2016年。
  • 崎濱紗奈『伊波普猷の政治と哲学―日琉同祖論再読』法政大学出版局、2022年。