橋が築く都市景観──ターナーとロンドンのウェストミンスター橋
- 日時:3月21日(木)17:00 - 19:00
- 開催形式:Zoomオンライン開催
- 発表者:大石和欣(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
- コメンテーター:アルヴィ宮本なほ子(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
- 主催:東京大学ヒューマニティーズセンター
- 申込(参加無料・要登録):
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZYrcemtqz8oHtbYHnqJXAgpn6fEVwW6GC8Z
概要
風景画はイギリス・ロマン主義の時代を特徴づけるジャンルのひとつだが、都市景観を描いた絵画も重要である。たとえば、テムズ川対岸のウェストミンスター寺院へと伸びていくウェストミンスター橋を描いたターナーの『ウェストミンスター橋 ー 川越しに見える寺院』(水彩画、1796年)は、水浅葱色の空と川面が、灰色に染まったロンドンの空気に溶けこむなかに橋や寺院などの建物が模糊として浮かんでいる彼らしい作品である。こうした表象は同時代の文学に描かれた都市景観とも共通する点がある。ロマン主義詩人ウィリアム・ワーズワスが1802年に同じウェストミンスター橋で詠んだ詩「ウェストミンスター橋にて詠める詩」は好例であろう。曙光を浴びた壮麗なロンドンの建物群がテムズ川の存在によって深遠な静寂に包まれ、そこにいまだ目覚めぬ「巨大な魂」の存在をおぼろげに感知する。
重要なのは上述のターナーの絵は他の類似の風景画と同様に、版画として広範囲に流通し、鑑賞されていたことである。ワーズワスも見ていた可能性はある。とくに都市に住む庶民にとって版画化された風景画は手軽に購入可能なアイテムであり、それらを自邸に飾ることで風景に対する嗜好を満足させ、結果として審美的価値を備えた都市景観をみつめる眼差しと美意識が形成されていった可能性がある。
今回のセミナーでは、ロマン主義時代のイギリスにおいて、川と橋のあるロンドン風景に対する美意識がどのように成立してったかを、版画とその流通や文学的表象との関係から解きほぐしてみたい。
大石の発表ののち、アルヴィ宮本なほ子氏のコメントを経てディスカッションに展開する予定であるが、参加者からのコメントや質問、意見も歓迎したい。
関連書籍
- 大石和欣『家のイングランドー変貌する社会と建築物の詩学』(名古屋大学出版会、2019年)。
- 大石和欣「都市が生んだ風景画 - トマス・ガーティンの《アイドメトロポリス》からの眺望」、小野寺玲子編『ランドスケープとモダニティートマス・ガーティンからウィンダム・ルイスへ』 (ありな書房、2019年5月)9-56頁。
- 山口惠理子編『ロンドン―アートとテクノロジー』(竹林舎、2014年12月)