オープンセミナー

初期中世ヨーロッパで法書を編むこと

概要

法慣習の影響が強かった初期中世ヨーロッパ社会においても、カール大帝以降のカロリング朝フランク王権の下、「書かれた法(lex scripta)」すなわち成文法に基づいて裁くという方針が強く打ち出されました。それに伴い9世紀には、成文法を含む手稿本が前後の時代に比して多く作成されました。しかし前回のセミナーでもお話ししたように、フランク王国は一つの政治体でありながら、王国内には君主の権威により発布された法令、王国内に居住する諸民族それぞれの法、さらにはいわゆる教会法など、多様な法的規範が併存しつつ機能する、法的多元性が現出していました。そうすると、裁く側もそうした複数の法を収録したリファレンスブックが必要になりますが、現代の『六法全書』のような、網羅性・統一性を備えた書物が広く流通していたわけではありません。実際に伝来している法テクスト収録手稿本は、使用の現場に近い各地で、ある意味「私的に」作られたものであり、収録内容・構成・テクストの質・装飾などがそれぞれに異なる、個性的な書物とみなせます。今回のセミナーでは、具体的な手稿本を取り上げながら、初期中世ヨーロッパの法文化を考察してみます。

関連書籍

  • 菊地重仁「西方キリスト教世界の形成」三浦徹編『750年 普遍世界の鼎立』(歴史の転換期3)山川出版社、2020年、79-131頁。
  • 久保正幡訳『リブアリア法典』(西洋法制史料叢書1)創文社、1977年。
  • 久保正幡訳『サリカ法典』(西洋法制史料叢書2)創文社、1977年。
  • 佐藤彰一『メロヴィング朝の模索』(フランク史2)名古屋大学出版会、2022年。
  • 佐藤彰一『カロリング朝の達成』(フランク史3)名古屋大学出版会、2023年
  • 西川洋一「初期中世ヨーロッパの法の性格に関する覚え書」『北大法学論集』41-5·6(1991年)29-121頁。