オープンセミナー

明治文芸書の装幀と印刷

概要

私の研究は、画家・版画家・装幀デザイナーであった「橋口五葉」への関心から始まっています。夏目漱石の一連の著書の装幀、あるいは今日、国際的に知られる「新版画」にあっても知られている訳ですが、その五葉の画業や仕事を探求する内に、背景にある明治期のデザインや印刷、時代の美術や文化の変遷へと好奇心を深めていきました。そして機会を得てまとめたのが『明治版画史』でした。今回は、文芸を商品化する上で重要な近代印刷、および文芸を包む製本・装幀、さらにこれらの変遷について具体例をあげてお話したいと思います。著者、出版までは研究が盛んですが、近代文芸に不可欠な印刷とか印刷美ということについての関心は薄いようです。今や時代は、紙媒体・印刷物伝達の時代から電子伝達の時代を迎えております。それはさて置き、当日に予定する内容は、江戸(和本)から明治(洋装本)へと、いつ頃、どのような変遷を経てきたのか、本のサイズの選択、製本の変遷、大量出版を可能にした印刷の装置、活字だけでなく平版の石版全盛の様相、写真製版、コロタイプ導入など変転目まぐるしい明治期に焦点を合わせ、具体例を挙げて示すつもりです。明治という豊かな文芸時代を仕組んだ印刷文化との兼ね合いを出来るだけ分かり易いかたちでお話しできればと思う次第です。(岩切信一郎)

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今回は、出口の企画によるオープンセミナーの4回めです。
すでにHumanities Center Booklet Vol.12にまとめられている2度のセミナーでは、出口自身が口絵・挿絵から明治文学のありかたを捉えなおしました。
また、前回の朝日智雄氏のご講演「木版口絵の世界」では、文学とセットのものにかぎらず、木版多色摺口絵の多様な魅力をお示しいただきました。
この3回のセミナーに続き、様々な技法による印刷画を広く研究され、『明治版画史』で第60回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞された岩切信一郎さんをお招きすることで、明治の印刷画の諸相をより広く見定めてゆきたいと思います。(出口智之)